その33
ホントにウソな話ですが、
これはわたし自身の話ではない。
わたしの知り合いのSさんから聞いた話だ。Sさんはギャンブラーで公営の合法ギャンブルであれ、違法なギャンブルであれ、賭け事の名のつくものには独自の理論と嗅覚で取り組む人だった。
Sさん自身の破天荒な人生もさることながら、Sさんの師匠の話がまたふるっている。
Sさんの師匠は競馬の予想師のようなことをしていたらしいが、それ以前には高校の教師をしていたらしい。ある時、修学旅行で地方に引率で行ったという。
自由時間になると師匠は、迷いなく競馬場へ飛び込んだ。懐には生徒から預かった修学旅行費が百万円以上ある。
魔が差したと言えばそうなる。
これを読んでいるみなさんの予想通り、師匠はなんとそのお金を競馬につぎ込んでしまったのだ。しかも、大穴一点買いで、だ。
普通なら、ここで大敗を喫し、彼の人生は転落するはずだ。百歩譲って使い込むまではいいとする。しかし、それで負けて、費用が消えてしまえば責任問題どころか立派な犯罪行為と見なされるだろう。
ただ、その師匠が普通でないのは、勝ってしまったことだ。
運ではない。それだけの大勝負に挑めるだけの確信が彼の内側にあった。
その後、無事、修学旅行を終えた師匠は、学校に帰るとその場で辞職願を提出したという。行きがけにはなかった数千万の金がずっしりと師匠の懐に眠っている。
師匠は教員を辞職した後、競馬の塾を開き、別の教師となった。
ギャンブラーでなくとも人間は大きな勝負に打って出ざるを得ない時がある。わたしは、そんな時に決まってこの話を思い出す。