その31
ホントにウソな話ですが、
わたしは中国に一年ほど住んでいたことがある。
その時、ルームメイトだったのが韓国人のキム・テフンという男だった。
彼は韓国人社会では少しはみ出し者で、なんとなく敬遠されていた。逆に日本人のわたしとわたしの友人たちとは仲良かった。
彼はメタルが好きで、よく部屋で絶叫するように歌っていた。
おりしも隣室では、韓国人が日曜ミサを行っていた。キムのメタルと隣室の讃美歌が壁一枚を隔ててせめぎ合っていた。
つにたまりかねたのか、隣室の韓国人たちがドンドンと部屋を叩き、クレームをつけてきた。どうやらわたしもキムと同類だと思われたようだ。
「ちょっとは控えたほうがいいんじゃないか」とわたしは言った。
「かもしれない」キムも納得してくれたようだ。
狭い留学生社会で余分な敵を作ることはない。わたしはキムがこれでおとなしくなると思いホッとした。
次の日、部屋で休んでいると、外からキムが帰ってきた。
なにやら大きな荷物を運びこんできているようだ。わたしが出迎えるとキムが大きな箱を抱えている。
「それ何?」
「アンプだ」とキム。
「おまえ・・・静かにするんじゃ」
絶句するわたしにキムは皮肉な笑いを浮かべた。
それからわたしたちの部屋は悪魔の住む部屋と忌み嫌われ、隣の韓国人たちはあっという間に引っ越していった。