その29
ホントにウソな話だが、
わたしはインドに3回行ったことがある。
故サイババで有名な街プッタパルティで衝撃的な体験をしたことがある。
インドにはまだ物乞いが多い。子供だったり大人だったり、女性であることもあるし障害者であることもある。
帰国を控えたある日、わたしは残りのルピーを使い切ろうと物乞いの女性に紙幣を握らせた。しかし、彼女は、指先を口に運ぶ仕草をするだけで金を受け取ろうとしない。
何か食べたいのだろうか。
おかしい、お金があれば、食事を賄えるはずだ。それなのになぜ、金銭を受け取らないのだろう。わたしは仕方なく、女性を連れて屋台に行った。屋台の主は、わたしから金を受け取ると、なんだかわからない揚げ物をくれた。
それを物乞いの女性に渡せという。周囲の人もゼスチャーでそう促してくる。
わたしは受け取った食べ物を物乞いの女性にわたした。女性は礼も言わず、ガツガツとそれをむさぼりはじめた。
瞬間はわたしは悟った。
この女性はたとえお金を持っていたとしても、食事を直接買うことができないのだ。わたしという第三者の手を介してしか金と物をやりとりできないのだ。
わたしはこれがインドに根強く残るカーストかと思い知った。
インドではブラーフマナ、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラと4つの階級があり、その下に不可触民(アウトカースト)が存在する。
彼らと接触すれば穢れを身に受けることになると言われる。
この資本主義の世界にあっても、アウトカーストの金を受け取ることは一般の人にはできないのだ。
わたしは衝撃を受けた。とてつもない世界を突きつけられた気分だった。低いカーストに生まれた者はどうやって生きていけばいいのだ。部外者には見えない厳然たるレイヤーがインドの人々を隔てている。
わたしは驚きとともに、インドという国の闇の深さを見た気がした。