その11
ホントにウソな話ですが、
旅行先のアメリカでのこと。
レンタカーを借りてカリフォルニアからネヴァダへと旅をしていた時のことだ。
ある町の道路の中央分離帯が工事中らしく、黄色と黒のトラ柄の柵が百メートルほどにわたって設置されていた。
わたしたちが車でその道を走っていると、反対車線からひとりの黒人が道を渡ろうとしてくる。
横断歩道でもない場所なので、ちょっと危ないな、と思っていた。
その黒人はボーダー柄のセーターを着ていたのだが、分離帯のところまで来ると一休みといった感じで座り込んだ。
座った彼のボーダーが黄色と黒の柵とまったく同じ色と幅で、ぴったりと柵と重なったのだ。
まるでカメレオンが周囲の風景に溶け込むように、その黒人の胴体は背景のトラ柄と区別がつかなくなった。顔だけが空中に浮遊しているようだった。
その黒人も、自分のセーターが背後のトラ柄と完全に一致していることに気付いてはいない。わたしたちは、そんな奇妙な光景を横目に旅を続けた。