その10
ホントにウソな話ですが、
わたしは子ども頃、バイクのレースをやっていた。
転倒と事故はつきもので、わたしも何度か病院に運ばれたことがある。
わたしを診た医師は、
「ええと命に別状はありません。身体は健康そのものです、肋骨や肺もきれいです。ですが・・・」
なにやら言いにくそうに言葉を濁す。付き添った父は不審がり、「何ですか? 何かあれば遠慮なく仰ってください」と医者に詰め寄った。
「はい」と言いにくそうに医者は口を開いた。
「息子さんの脳は、普通の人間のものとは違います。まったく違うんです。人間のものではないからとって何か別のものだというわけじゃないんですが、こういった脳はこれまで報告されていません」
父は絶句した。わたしは自分のことだという自覚がなく、上の空だった。
「よければ、研究させてもらいたい。いえ、是非、協力をお願いします」
医者は、わたしの脳が進化した次世代の人間の脳かもしれないし、突然変異なのかもしれないとは言ったが、正直、お手上げだと漏らした。
「お断りさせて頂きます」
息子を実験台にされると思ったのだろうか。父はわたしを連れ逃げるようにして病室を出た。
その後、もう一度事故を起こし、身体を調べられたことがあった。
医者はおずおずと切り出した。
「実はですね、お子さんには少し変わった部分がありまして・・・」
「けっこうです」
父はまたか、と思ったのだろう、強い口調で会話を打ち切って、また病院を出た。
以来、わたしは自分の脳を医師に調べさせていない。バイクのレースもやめてしまった。