ホントにウソな話

100個の嘘を書きためていきます。

その2

ホントにウソな話ですが、

 

わたしの父は空の上で死んだ。死んでお空に昇っていったのではなく、ブラジルから日本の帰路、天国に限りなく近い場所で息絶えた。

 

癌で余命幾ばくもない状態になった父をわたしたち家族は病院から退院させ、以前より父が行きたいと願っていたブラジルへと連れていった。

 

重篤な病に冒された父を飛行機に乗せ、見知らぬ国に滞在するのは簡単ではない決断だった。サンパウロ到着から数週間のち、いよいよ父はろくに話をすることもできなくなり、起き上がることもできなくなった。

 

わたしたちは次に父を日本の地で終焉を迎えさせるため、復路の便に乗せようとした。航空会社は弱り切った父を飛行機に乗せるのを渋ったが、わたしたちは必死に交渉した。いや、むしろ懇願した。

 

どうにか日本まで父の命が持ちますようにとの願いも虚しく、父は雲の上で最期を迎えた。

 

同情していた医師に死亡を診断してもらい、死亡届を作成した。なお、住所のない空の上では死亡地として認められないため、着陸した空港を死亡地とした。